医療崩壊 その4

前回続きです。

高度な技術を持った人が、それなりの待遇を得ていることに対して、多分多くの人が賛成すると思います。その額がいくらであるかについては、いろいろ議論があるでしょうけれども、例えば世界的には数学的な才能に対しては、非常に高額の報酬が支払われます。革新的なプログラムのアイデアに対してもです。同じように、高度な外科的技能に対しては、世界的には高額の報酬が支払われます。ただ残念なことに日本の医療の世界では、今までは医療の技術とか、知識といったものに対してではなく、経営的才覚とかいったもうすこし別の観点からみて報酬が決まっていました。それはひとえに、医療政策の誘導を、国が診療報酬(どのような行為をしたら、いくらになるトイ決め事。2年ごとに改訂され、複雑怪奇な内容になっている。電話帳ほどの厚さがある本にまとめられていてる。)を通じて行なってきたためであると思われます。国が誘導したいという方向に、高額の報酬をつけることで、医療機関を誘導していこうというものです。かってはそれなりに機能していましたが、現在はこうした方法はうまくいかなくなりつつあります。例えば、今の小児科や産婦人科の医師の不足を、小児科や産婦人科への診療報酬を増すことで対処しようとしています。ということは小児科を標榜していれば、開業医だろうが、基幹病院の小児科だろうが、収入が増えることになります。大病院の場合、もともと小児科は不採算部門でしたから、多少診療報酬が上がったところで、小児科医の待遇が劇的によくなることはありません。しかし、小児科を標榜する開業医は、診療報酬の増額の恩恵を直接受けます。とすると何が起こるか、もうお分かりですよね。

今厚生労働省が進める在宅医療についても同じことが言えます。

ということはまた次回以降に書きます。

医療崩壊 その3

前回日本の医療費が安いことを書いた。国際的に比較して、日本の医療費、特に所謂専門的な技量を必要とする医療の医療費はものすごく安い。特に手術の技術料は驚くほど低く抑えられている。これは技術という眼に見えないものを評価することがもともと少ない日本というか、アジアの土壌に根ざしているのかもしれない。低い技術料を、物品、例えば人工関節の納入価格と保険の価格のわずかな差額で補っているのが現状で、それとても本来高い技術をもったひとに十分に報いるものには程遠いのが現状である。

日本の医療のさらに特殊なのは、高い専門的な技術を実際に発揮している30才台から40才代にかけての報酬が低く抑えられているのに対して、そうした専門的な医療から引退して、開業して家庭医になってからのほうが収入が一般的に多くなるというところにある。世界的に見て、専門医よりも家庭医のほうが収入が多いのは日本とデンマークだけだそうである。 大病院に勤務して難しい病気の治療をしている小児科医の収入が少ないことがおかしいという疑問を、知り合いの成功している開業医の先生にぶつけてみたところ、なに開業すれば元が取れるだからという答えがかえってきたことがあった。風邪のなかに重大な疾患が隠れていることがままあるから、開業している小児科医の重要性を否定するものではないけれど、まあ普通に考えて、大病院で、寝る間を惜しんで、難病から、普通の風邪までの診療をしている小児科医の方が、主として軽い病気を見ている開業小児科医より収入が少ないのはおかしいと思うわけです。

ただ今の日本の医療制度は長年の歴史的な積み重ねの結果としてあるものなので、闇雲にいじると混乱が広がって、かえっておかしなことになる。それはちょうどいま厚生労働省の朝令暮改の制度改正で、現場が混乱しているのと同じである。

でも皆で知恵を絞れば、よい解決策はきっとあるんですね。

その辺はまた明日以降に書いて行きます。

医療崩壊 その2

医療崩壊の最大の原因は医療費が安すぎることにあると書くと、驚かれる方もい多いでしょう。

私は、俺は今の医療費でも十分高いぞと感じておられるひとはまずは下記の データをまず見てください。

AIU調べの虫垂炎(所謂盲腸です) に要する医療費と入院日数を見てください。

場所        入院日数    費用

ニュ-ヨ-ク    1日    243.9万円

香港         4日    152.6万円

ソウル        7日     51.2万円

日本         7日     37.8万円

アメリカ人とて1日で虫垂炎から回復するわけはないのですが、医療費が余りに高いので、1日で退院して、あとは近くのホテルに泊まって、外来に通ったりするわけです。勿論保険に入っていればこのうちの何がしがカバーされるので、自己負担の額は人によるので一概に言えないのですが、とにかく日本の医療費がダントツに安いのは事実です。それでも医療費が高いと感じるのは、国民皆保険とフリーアクセス(いつでも好きな医療機関に何の制限もなくかかれるという世界でもまれな制度)に加えて、長いこと意図的に医療費を抑えてきたために、医療の価格に誤った認識を皆が持ってしまったことに大きな原因があります。

いやいや近くの開業医はベンツに乗っているぞという声が早速聞こえてきました。けしからん、と。

お気持ちはわかります。

その辺はまた明日以降に。

医療崩壊

このところ毎日のように新聞の一面に医療改革の話が出ているのを皆様お気づきでしょうか。

1)後期高齢者医療保険制度

2)総合診療医

3)小児科産婦人科の問題

4)医師確保法今国会で制定へ

などなど。僕は自分自身が一開業医でもあり、非常勤の病院勤務医でもあるので、これらのニュースにどうしても眼がいくが、多分多くの人は自分には関係ないことと思っているのではないでしょうか。だから上のようなことがどんなことを具体的に意味するのかイメージがつかめないじゃないかと思います。

今表面で報道されていることは、大きな変動の前触れで、このまま行くとあと5年もすると、病気になったときに病院へ行って、みなさん随分と驚くことになるようになります。

どんなことが起こるかって?

1)今入っている公的健康保険だけでは、満足な医療が受けられなくなるので、民間保険に入らなければならなくなる。一流病院に行くためには民間保険が必須になる。

2)公的健康保険だけだと、例えば胃癌になったとして手術が半年先と言われるかもしれない。勿論高額の民間保険に入っていて、公的健康保険を使わなければ、手術は今と同じようにすぐ受けられるかもしれない。

3)今は風邪で病院や診療所に行くのが普通だけれど、風邪くらいでは病院にも診療所にもかかれなくなるかもしれない。

4) そもそも病院の数がずっと減ってしまって、身近には少数の大きな病院しか残っていないかもしれない。

要するに、今と同じように気軽に検査を受けたり、診察を受けたりすることが出来なくなっているかもしれない。

上に書いたようなことは、今のアメリカの現状で、気軽に病院に行ける日本のような国は世界にほとんどないことをみなさんご存知でしたか。
どうしてそんなことになるかもしれないのでしょう。

ゴールデンウィーク

皆様はどのようにこの黄金週間を過ごされたであろうか。僕は暦どおりに休み、働いた。4月28日は茨城まで出張麻酔。29日と30日は山中湖に家族旅行。5月1日は埼玉の病院で出張麻酔。2日は自分の医院での外来診療と往診。そして3日より休みだが、4日に山登りに一人で出かけた以外は家で過ごしている。

4日に出かけたのは 瑞牆山(みずがきやま)という奥秩父のやまである。甲府盆地からも南アルプス側に少し上げれば眼にすることの出来る花崗岩の屹立する特徴のある山である。登山路自体は危険なところもほとんどなく、また100名山とあって、下山中に、少なく見積もっても200人以上の登山中の人とすれ違った。中には両親に連れられた運動靴の小学生も混じっていたが、2230mの頂上直下の稜線はまだスケートリンクのようにつるつるに氷結していたから、転んで怪我でもしなければよいのだが。臆病な僕はたった30mほどではあるけれど、しっかりアイゼンをつけて歩いた。天気は極上で、頂上からは八ヶ岳、南アルプス、奥秩父の山並みがくっきり見えて最高の時間を過ごした。
山に登らない人でも、登山口の瑞牆山荘なでは道は完全に舗装されているし、山荘近辺の散策だけでも楽しいし、少し登った富士見平まではスニーカーでいってもまったく問題ない道なので、是非お出かけになること勧めます。


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