タミフルについて連日報道されている。現場の私たち医師も正直混乱している。
そもそも今はやっているインフルエンザは普段元気な成人にとってはちょっと重めの風邪であって、休養と栄養をとれば命にかかわることはまずない(絶対に、ではないですよ)。タミフルを摂取しても熱のある期間が1-2日短くなるだけです。
ところが子供ではご存知のように脳症という重篤な状態になることがあり、命を落としたり、重い後遺症が残ったりすることがあるのです。またどのような人が重い脳症を発症するかは、今のところ事前に予測することが不可能なのです。 この脳症の発症は以前は7歳以下に多いといわれていたのですが、10才台でも報告されています。さて、ここで我々が混乱するのは
1)タミフルによって脳症が防げるのか、タミフルを飲んでも脳症の発症率は変わらないのかについてのデータがない
2)タミフルと異常行動の関連についての客観的なデータがない
この二つがわからない限り、このなんでも訴訟の時代ですから、タミフルを投与しても、投与しなくてもなにか問題が起こったときに訴えられる可能が生じてしまうのです。
また新型インフルエンザがもし流行り始めると、今のところ有効な対応策はタミフルとリレンザしかない上に、リレンザは入手困難なので、タミフルを飲まざるを得ない。しかし、あまりタミフルの危険性ばかりが強調されると、必要なときにタミフルを飲まない人も出てくるかもしれない。
などなどいろいろなことが頭を駆け巡るわけです。
最後に自分の子供だったらどうするかということを書きます。インフルエンザにかかって、高熱を出して真っ赤な顔をしているが、あまり汗が出ないという状態は、漢方で言う典型的な太陽病なので、漢方薬の麻黄湯を使います。その時に注意することは、薬は熱湯に一度溶かして冷ましてから飲むこと、できれば空腹時に飲むことです。葛根湯にも麻黄が含まれているので、葛根湯でも代用可能です。そして、ちょっと多めに使います。甲状腺機能亢進があると使えないなど、この処方にはいくつか注意点があるので、漢方に詳しい先生に相談してくださいね。
またインフルエンザにそっくりな症状を起こす病気にレジオネラ症というのもあります。レジオネラという細菌を温泉施設などで大量に吸入すると起こる病気で、早いうちに適切な抗生物質を使わないと、体の弱っている人では命を落とすこともあります。
世界中で、インフルエンザですぐに医者にかかれて、診断キットですぐに迅速診断されて、タミフルを含めて適切な治療を受けられるのは、実は先進国を含めて日本だけなのです。
他の国ではどうしているかって? 例えばイギリスやアメリカでは、アセトアミノフェンを飲んで家でじっとしているだけです。